web版 陽岳寺護寺会便り

下町深川の禅寺 陽岳寺からのお知らせのブログです

もしお坊さんが『ゲーミフィケーション』を読んだら(後編)

もしお坊さんが『ゲーミフィケーション』を読んだら(前編) - たぜあた -web版陽岳寺護寺会便り-の続きです。

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える


前回のブログの記事では、寺院の活動にゲーミフィケーションを導入できないか、ゲーミフィケーションとは何かと考えてみました。
今回は、第2章を読みながら、では実際にどのようなことを考えることができるか、述べていきたい。

目次

  • Chapter1 ゲーミフィケーションとは何か

Part1 ソーシャルはゲームへ
Part2 ゲーミフィケーションの誕生
Part3 ゲーミフィケーション・インパク
Part4 ゲーム環境の拡大-空間、時間、人

  • Chapter2 ゲーミフィケーションを考える

Part5 ゲーミフィケーションの実践のために
Part6 ゲーミフィケーションとその論点
Part7 多様なゲームの可能な社会へ

着想→つくりあげる→洗練

第2章では、実際にゲーミフィケーションを実践するための手順が、3STEPに分かれて述べられている。

  • STEP1:着想
  • STEP2:つくりあげる
  • STEP3:洗練

プラン、ドゥ、シー、アクト(PDCAサイクル - Wikipedia)に似ている。


まず最初にアイデアを出していく。本書には具体的な例とともに、ゲームのノウハウが書かれている。自分がしたいことと、ゲームのノウハウ・要素をマッチングできないものかと考えてみる。
つぎに紙に書くなどして、ゲーミフィケーションの形にしていく。ポイントをためる、レベルアップする、バッジを与えるなどの具体的なプロセスを現実に当て込んでみる。
最後に、テストプレイ&リリースしてのヴァージョンアップをはかる。

インターフェイスから考えをはじめる、体験させたい内容から考えるなど、さまざまなアプローチがあり得るだろう。また、そこで与えたい「おもしろさ」のコア(中心)からゲーミフィケーションのあり方を発想していく方法もあるだろう(p155)。

といっても、どうやって形にしていけばいいのか。どの立場で?おもしろさって?ルールとプレイヤーとの相性は?ちゃんと考えてから実践にうつさねば、失敗するだろう。
ゲームデザインの手法はたくさんあるとのことだが、本書では、以下の2つをメインに紹介している。

  • プレイヤーがゲームを楽しむ順序の設計
  • ゲームのルールなどメカニクスの設計

ゲームをたのしむ順序の設計

ゲームセンターのコンピューターゲームでは、短い時間で「ゲームのルール」「ゲームの魅力」を感じてもらう必要がある。短い時間とは、適当なところでゲームオーバーにもなってもらう時間(そうでなければ儲からない)。このノウハウは家庭用ゲームへと場がうつる中で重要になった。
できることは多くなるが、いちばん最初のルールはシンプルであること。短時間で、ゲームの遊び方と魅力を味わうことができること。
しかも、この二つを強制されていると感じることなく、デザイナーの意図する順序でたのしんでもらうのが、順序の設計のミソだ。
チェスや将棋はゲームとしては洗練されているが(戦略の奥深さなど)、ルールを覚えるまでのハードルが高い。そこで、たのしむ順序の手法の代表的なものとして、「アンロック」「レベルデザイン」を説明している。
アンロックは、順序を追うことで出来ることが増えていくという手法。レベルデザインは、順序を追うことで出来ることが上達していくという手法。

ゲームのルールなどメカニクスの設計

メカニクスとは、ゲームのルールやアルゴリズムのことで。そのひとつに、MDAモデルがある。MDAモデルは、ゲームの仕組み(M)・遊ばれ方(D)・プレイヤーの持つ感覚(A)の相性を考えるモデル。
たとえば「ランキング」「課金」「クイズ」だ。


箇条書きのように書いてきたが、目的達成のために、ゲーミフィケーションを導入するとして考えてみる。そのツールとして、護寺会便りを挙げる。

護寺会便り集めゲームから考える

そもそも護寺会便り集めゲームは、ゲームになっていなかった。名前にゲームをつけただけだ。

ゲーミフィケーションはゲームの考え方やメカニクスなどのノウハウを持ち込むことであって、ゲームそのものをつくることが目的ではないことを最初に確認しておいた方がよいだろう。(p.148)

私たちはゲームをつくりたいわけではない。ゲームの要素をもちいることで、人間の活動に影響を与えることが目的である。

      • 護寺会便りは、ほぼ月刊。いま現在は毎月送ることができていますけれども(現在No.130より多い)、護寺会便りをバインダーにまとめてくださっている方がいます。切手を集めるように、護寺会便りの枚数が増えて喜んでくれている、というわけです。月一回というタイミングで、この楽しみは持続されます。こう考えれば、護寺会便り集めはゲーム要素を含んでいるといえます。

ゲーム、ゲーミフィケーションの定義をどこまでにするか、という話しになりますが、その点でポイントとなるのは目的です。
こちらの意図した行動をとってもらうための仕組み作りを、ゲームの要素にて考えることがゲーミフィケーション(とします)。

「〜集めゲーム」・・・集めてもらうために

護寺会便り集めゲームは、ゲームになっていません。それはなぜか?「〜集めゲーム」と言うほどの仕組みが成り立っていないからです。集めようという行動を促す仕掛けがない。
そもそも護寺会便りは「集める」というより「集まる」ものです。なんたってほぼ毎月、お寺から檀信徒の皆様宅へお送りしているものですから。集めようと思わなくても、集まってしまうわけです。そこで

    • 便りはA4両面に書いてあります。表面だけ刷ったものを送り、裏面はお寺に来なければ手に入らないようにする

デメリットは、遠くに住んでいる人には手間がかかりすぎるし、お寺としても紙の消費量が増えます。

    • 毎号ごとにキーワードが書いてあり、並び替えると意味のある文になって、正解者は表彰する
    • 12部集めたら、特製バインダーを進呈
    • 24ナンバー集めたら、寄稿した文章を護寺会便りとして送ることが出来る

集めた数を測り、フィードバックを与えます。一定ポイント数で交換できるアイテムがちがう。しかし・・

本当の狙いは内容に突っ込んでもらうこと=読んでもらうために

しかし本当の狙いは集めてもらうことではありません。そもそも集めるだけなら、郵送されてきたまま仏壇に突っ込むだけでもいいわけです。
本当の目的は、内容に突っ込んでもらうこと。読んでもらわないと意味がない。こちらの意図する行動は「護寺会便りを読んでもらうこと」+「考えてもらうこと、突っ込んでもらうこと」そこで

    • 内容に絡んだ、クイズを出す。正解すると・・・
    • 感想文の護寺会便りを発行する

クイズをおもしろく遊ばせる仕組みが、護寺会便りでは本末転倒。でも、読んで考えてくれるなら、それでもいいのだろうか。
感想文の護寺会便りを発行する仕組み。なかなか文字に起こしたものを持ってくるのは面倒だろうか。では、そのためのハードルをさげよう。たとえばインターネットで感想・クイズ回答フォームをつくる。メールで送れるようにする。スマフォアプリでいつでも内容が見られて、感想を述べられるようにする。

さいごに

観光寺のように職員さんを雇って・・というお寺は少ないです。それ以外のお寺ではどうしても人的資源が少なく、コストパフォーマンスが常に問題として立ちふさがります。ゲーミフィケーションの導入は、コストを低くおさえること。動き出したら勝手にまわってくれること。を意図してのことでした。いろいろ考えすぎて、ゴチャゴチャしましたが、さいごにアイデアをつらつらと。

  • 毎月命日、墓参しようプロジェクト

命日の前後一週間内に、お参りにきたらスタンプをおす。12ヶ月連続でプレゼント進呈。どうしても毎月来るのは大変だという方々との差も考えて、スタンプ12個でプレゼント進呈。

  • お寺を使いたいという場所代がキリ番ごとに無料

スタバのカルマカップ。店頭にボードを置いて、マイカップでドリンク注文するごとにチェックをつける。たとえばチェックが10の倍数のとき、ドリンク無料になる。紙コップ問題解決のためだが。そっくり使えば・・

  • 駅のスタンプのように。お寺に訪れるたび、アンロック。坐禅をするたび、アンロック。法事をするたび、アンロック。法要をするたびに獲得できることは時間だ。この時間が悲しみを癒す糧となるという、法要をする。法要はどうしても「義務」だと認識されやすい。レベルアップごとに出来ることが増える「獲得」に変換する。
  • イノベーションとは、関係について見直すこと。墓参されない人もいれば、毎月いらっしゃる方も。極端なはなし、法要がただお経を聞くだけの場ではなく、般若心経を覚える・実践する場と考えてもらえるようにする仕掛け。墓参は、個人と故人のためでもあるが、お寺の為でもあると認識してもらう仕掛けをつくる。


なにかを得ようとすると、なにかと引き替えになります。遠い将来は待てるけれども、近い将来は待てない人が多いと聞きます。それはまるで自身には、飽きもこない、素晴らしい光を放っていることに気付いていないようなことです。
なんかやってくれるんじゃないかと期待してくださった方々すみません。これからも、長いこと考えていかなければいけません。そのために色々な場に出ていってます。勉強中!

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